トランプ政権発足後1週間でアメリカのサイエンスに起きたこと

最初に断っておいたほうがいいかもしれません。私自身は地球温暖化についてはIPCCと同じ意見です。つまり、地球温暖化はほぼ確実に起きていて、その原因は人為的なものである可能性が高いと考えています。その意味で気候変動に対して否定的なトランプ政権の方針には批判的です。以下の文章は、そういう視点で書かれていることに注意してください。

*

さて、トランプ政権の発足前、彼が大統領選に勝利したときから、サイエンスのコミュニティでは彼の科学政策を不安視する声がありました。そのひとつが気候変動の問題です(他にもワクチンの問題などがありますが、まだ噂レベルなので今回は触れません)。トランプ氏は選挙期間中から気候変動問題は存在せず、過剰な環境規制が経済を圧迫していると主張してきました(選挙期間中に「気候変動の話は中国のでっち上げだ」とTwitter でツイートして問題になったのを覚えている人もいるかもしれません)。

しかし、気候変動が起きていることについてはほとんど疑いの余地がないというのが一般的なコンセンサスでしょう。そしてその原因についても人為的な影響がかなり大きいだろうというのが多くの気候学者の共通した意見です。もし、これに真っ向から反対する意見を持った大統領が生まれたら、アメリカの環境政策は、そして気候変動の研究はどうなるのか?また、アメリカの気候変動研究はその規模とクオリティで世界のトップレベルにあります。もし、その研究体制が弱体化することがあれば、世界の気候変動研究に大きな影響が出るかもしれない。これが世界中の気候学者たちが懸念していたことでした。

そんな中、就任前の準備期間中に流れたニュースが関係者を震撼させます。それは米国環境保護局(US Environmental Protection Agency, EPA)の長官にオクラホマ州司法長官のスコット・プルイット(Scott Pruitt)氏を指名するというものでした。米国環境保護局は、環境規制の執行や気候変動に関する研究などを管轄する部局ですが、プルイット氏は、温暖化は排出ガスのせいではないという主張し、当の環境保護局の環境規制に対して、産業活動に対する妨害であるという理由で数多くの訴訟を起こしてきた人物です。つまり、環境規制を行う組織の長官に、環境規制の不要を主張する人物を任命したということになります。

別の見方をすれば、その組織の敵対者をその組織の長に据えることで改革をもたらそうしているともいえるかもしれません。少々荒っぽいですが、それも一つのやり方です。その組織に敵対していた人物なら、その組織の改革すべきところを知り尽くしているでしょう。それを踏まえた上で、その組織がより良い方向へ向かうように改革を行うならば、素晴らしい人事にもなりえます。ただ、もちろんこれは諸刃の剣。毒が強すぎれば、組織そのものの根幹を破壊しかねません。そして、この1週間で起きたことは、その最悪のシナリオを予感させるものでした。

皮切りは、1月20日の政権発足直後にリニューアルされたホワイトハウスのWebサイトから気候変動に関するページがなくなっていたことです(同時にLGBT関するページとスペイン語サイトが消えていました)。通常大統領が変わるとホワイトハウスのWebサイトがリニューアルされます。特に今回は、オバマ政権に批判的な立場として生まれた政権でしたから、前政権の色が消え、新しい政権の方針を打ち出したものにがらっと変わるのは当然と言えるでしょう。その意味で、このWebサイトのリニューアルは、就任演説に続いて新政権の方針を最初に垣間見られるものの一つといえます。そのサイトに気候変動の文字がない(LGBTもスペイン語もない)。これは関係者を不安にさせるのに十分な事実でした。

これとほぼ並行して、小さな事件がSNSの上でも起きていました。就任演説があった20日の金曜日、アメリカ合衆国国立公園局(U.S. National Park Service)のツイッターアカウント(@natlparkservice)が、トランプ大統領とオバマ大統領の就任式の群衆の大きさを比べた写真をリツイート(他のユーザーのポストを引用)し、後にそれを削除、翌土曜日に不適切なリツイートがあったことを謝罪しました。そして、報道によれば国立公園局の上位機関である内務省から「月曜日に新しいガイダンスが出るまで、週末はツイートを控えるように」という通達が出ていたようです。確かに、多分に政治的な意味のある就任演説での群衆の比較写真を国立公園局の公式アカウントがリツイートすることが適切かというと疑問が残ります。しかし、トランプ大統領に反対する人々から見れば、この削除とそれに続く通達は検閲とも取れる内容でした。

そして、明けて月曜日から、そうした嫌な予感が現実のものになったと思わせるようなニュースが次々と流れました。

一つ目は、環境保護局に対して、研究資金援助と新しい契約を即時停止し、Webサイトから気候変動に関するページを削除するように命じたというものです(このWebページの削除については後に一時的に保留されました)。続いて、いずれも気候変動に関わりの深い環境保護局、内務省、保健福祉省、農務省に対して、メディアを含む一般向けの情報提供を一時的に停止するように箝口令を出したというニュース。これに呼応するように、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は以前から予定されていた気候変動と健康に関するカンファレンスを突然中止します。さらに、今後は環境保護局から発表される科学的な成果やデータについては、政府から出向した職員が事前にチェックするという方針が出されたと報じられました。

当然ながら、気候変動の研究者を中心に大きな批判の声が上がりました。いや、まて、それは検閲じゃないのか?ホワイトハウスは政策に都合の悪い研究を潰し、気候変動に関する情報やデータなどを抹消しようとしているんじゃないか?

そして、この政権の動きに対抗して幾つものプロジェクトが立ち上がります。一つは、Scientists’ March。トランプ政権誕生の翌日、1月21日にワシントンDCを中心に、米国および世界各地で女性の権利を訴えるために行われたウィメンズマーチに習い「科学的な成果やデータを政治的な意向で検閲すべきではない」と訴える研究者とそれに賛同する人々のデモです。もう一つはデータアーカイブプロジェクト。これは、政権によって気候変動のデータが消される前に有志によってアーカイブ化しようというもの。すでに全米各地でイベントが行われ、有志が集まってWebサイトやそこで公開されているデータなどのアーカイビングが行われています。このプロジェクトそのものは政権発足前から動いていましたが、ここに来てさらに大きな脚光を浴び、規模が拡大しています。さらに、キャンセルされたCDC主催のClimate & Health Meetingについては、元合衆国副大統領のアル・ゴアや共同主催者だった公衆衛生協会(APHA)などを中心に有志の手で同様の会合が開かれることになりました。

Scientists’ March on Washington
http://www.scientistsmarchonwashington.com/

PPEH Lab | DATAREFUGE
http://www.ppehlab.org/datarefuge

Climate & Health Meeting
https://www.climaterealityproject.org/health

SNS上でも更に事件が起こります。この箝口令に反対したバッドランズ国立公園管理局(ここは箝口令が敷かれた内務省の下部組織であり、就任演説の日に「間違ったリツイート」をした国立公園局に属します)のツイッターアカウント(@BadlandsNPS)が、猛然と気候変動に関するツイートをはじめました。そしてこれも程なく削除されて「なかったこと」になります。

そして、これがきっかけとなって、箝口令が敷かれた組織に属する”反逆者”たちが政府組織の非公式アカウントを作り、気候変動とトランプ政権に対する批判を怒涛のようにツイートし始めました。彼らが本当に組織に属する人間なのかは確かめようがありません。でも、それらのアカウントは一日で数万というフォロアを獲得し、上のデータのアーカイブプロジェクト、研究者のデモ行進と一体となって一つのムーブメントになりつつあります。

下は、箝口令に反対して立ち上がった主なTwitterアカウントを集めたリストです。彼らのつぶやきを見ると、彼らが何に怒り、何を憂いているのかの一端がわかるかもしれません。

lizard_isana/resist on Twitter
https://twitter.com/lizard_isana/lists/resist

これが、トランプ政権の発足から1週間で米国のサイエンスに起きたことです。

こうやって改めて整理すると、新政権の移行時に、前政権の色を払拭して、新政権のガバナンスを強化しようとして暴走した、とも取れなくはない内容です。でもその一方で、政権の方針に合わない組織に対して、非常に強硬な姿勢を見せたともいえるでしょう。公約を守ろうとしているともいえますが、トランプ大統領に反対する立場からすれば、規制緩和のために都合の悪い気候変動という事実そのものをなかったことにして、関係者を黙らせようとしているように見えます。少なくとも、トランプ新政権は、最初の1週間で気候変動の研究者だけでなく、アメリカ中の(あるいは世界中の)研究者を敵に回しました。

研究者というのは基本的にオープンであることを是とする人たちです。それはサイエンスそのものがオープンであることにその正しさの論拠をおいているからです。論文が公開され、データが公開され、その研究手法が明らかにされて初めて、誰もがその研究の妥当性を評価できます。とくに気候変動の研究は、全世界規模で長期間、広範囲に渡って継続的に取られた様々なデータを突き合わせて、ようやく何かが見えてくるという分野です。その意味では気候学はサイエンスの持つオープンさに支えられているといってもいいでしょう。そういう彼らに対して「口をつぐめ、政府のチェックを受けるまでは研究成果もデータも公開するな」といえば、怒るのは当然です。サイエンスをなんだと思っているのか?

これからどうなるのかは現時点では誰にもわかりません。これが政権移行時の一時的な混乱なのか、あるいは強硬な姿勢をこのまま貫くのか。さらにNASAやNOAAのような他の気候変動を扱う機関へ波及していくのではないかと云う懸念の声も聞こえます(すでにNASAの気候変動部門を縮小して、地球観測はNOAAに集中させるという話も出ています)。いずれにせよ、発足からわずか1週間で、トランプ政権の強硬な姿勢は、アメリカのサイエンスにこれだけの波乱を巻き起こしました。具体的な施策が打ち出されるのはまだこれからです。この混乱はしばらく続くかもしれません。

Reference

Rumours swirl about Trump’s science adviser pick : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/rumours-swirl-about-trump-s-science-adviser-pick-1.21336

Trump’s EPA Pick Doesn’t Agree With 97 Percent Of Climate Scientists | The Huffington Post
http://www.huffingtonpost.com/entry/scott-pruitt-climate-change-hoax_us_587f9ecfe4b0cf0ae88131b6

White House temporarily freezes EPA grants, contracts : Reuters
http://www.reuters.com/article/usa-trump-epa-idUSL1N1FE4O3

‪Trump administration tells EPA to cut climate page from website: sources : Reuters
http://www.reuters.com/article/us-usa-trump-epa-climatechange-idUSKBN15906G

“Rogue” Science Agencies Defy Trump Administration on Twitter – Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/ldquo-rogue-rdquo-science-agencies-defy-trump-administration-on-twitter/

CDC Climate Change and Health Meeting Back On — Without CDC – NBC News
http://www.nbcnews.com/health/health-news/cdc-climate-change-health-meeting-back-without-cdc-n712816

Scientists join massive protest against Trump : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/scientists-join-massive-protest-against-trump-1.21345

イエローストーン国立公園の火山が2週間以内に噴火する? → しません

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The Grand Prismatic Spring in Yellowstone National Park
Jim Peaco, National Park Service(Public Domain)

イエローストーン国立公園の火山が2週間以内に噴火するかもしれない、というニュースが話題になっていました。見出しを見た瞬間に疑ってかかるような類の記事ですが、信じている人も少なからずいるようなので少し調べてみました。

イエローストーンの巨大火山 2週間以内に噴火の恐れ – News – サイエンス – The Voice of Russia

これは、イエローストーン国立公園の下にある巨大火山が2週間以内に噴火する恐れがあると、同国立公園所属の地質学者ハンク・ヘスラー氏が発表した、というニュース。結論から言えばデマです。少なくともハンク・へスラー氏はそんなことは言っていません1

ちなみに、上記記事にも引用されている上の写真は「グランド・プリズマティック・スプリング」、イエローストーン国立公園の観光名所の一つで、ただの温泉です。今回の話とはほとんど関係ありません。

***

さて、あちこちのニュースサイトで話題になっていますが、おそらく火元はここです。ただし、この記事そのものはまっとうな火山についての記事でデマではありません。

Will the Yellowstone Volcano Erupt?: KSFY

これはABCニュースグループのKSFY Televisionが29日に放映したイエローストーンの火山活動についてのレポートです。内容的には「イエローストーンは近い将来噴火するかもしれないし、しないかもしれない。はっきりしたことは分からないが、もし噴火したら大変なことになるかもしれない」というこの手のレポートとしてはごくごく一般的なもの。ここに噂のHank Heaslerさんが登場してインタビューに答えています。

ヘスラー氏のインタビューの内容もイエローストーンで起きている地震や火山活動についてのごく普通の説明です。ただ、その中で彼は噴火の可能性について「2週間」という表現を使っていました。問題の箇所はここ。

Researchers like Hank who study both seismic and volcanic activity here at Yellowstone say they are fairly certain that there will be no type of volcanic eruption here in the foreseeable future. But then we asked Hank to define “foreseeable future”.

“Now what do we mean by foreseeable future? I would say, you know a couple of weeks, and that’s what I would say with certainty.”

ハンクのようなイエローストーンで火山や地震活動について研究している研究者は、こうした噴火(破滅的な大噴火)が、近い将来起きることはないだろうと言っています。しかし、我々がハンクに「近い将来」を定義してくれと問うと、彼はこう答えました。

「近い将来がどれくらいのことを意味しているかって?そうだな、2週間、それくらいなら確実に無いといえるだろうね」

どう見てもこれは「いつ起きるかははっきり予測できない」という比喩表現ですが、これを陰謀論を信奉する人たちが、2週間はなにもない、ということは2週間後に何かあるんだ!と騒ぎ出した、というのが真相のようです orz…

あまりそういうサイトのPVを増やしたくないのでリンクはしませんが、この記事を引きながら2週間後が危ないと主張しているのは、普段から「UFOが!」とか「政府の陰謀が!」とか言っている陰謀論系のブログやYoutuberばかりです2。このヘスラー氏のコメントを曲解する以上のソースを提示しているものはありません。とても信頼に足る情報とはいえませんね。

***

さて、じゃあ実際のところどうなんでしょう?イエローストーンは噴火するんでしょうか?結論から言えば、分かりません。

カルデラ破局噴火と呼ばれる、地球全体の気候に影響を与えるような巨大噴火が起きうる場所として、イエローストーン国立公園が上がっているのは事実です。イエローストーンは、約220万年前、約130万年前、64万年前の3回こうした大噴火を起こしたことが分かっており、周期から考えても次がいつ起きてもおかしくありません。ただし、それは数千年、数万年という時間軸の話です。

一方で、近年イエローストーンの地質的な活動が活発になってきているのも事実のようです。今世紀に入ってから、地面か隆起したり、池が干上がったり、蒸気の噴出が増えたりといった現象がおきているとのこと。やっぱり!と言いたいところですが、これを新たな巨大噴火と直接結びつけるのはあまりに早計です。かたや数万年単位、かたや数年単位。誤差のレベルというのも気がひけるほどスケールが違う話です。

我々は今目の前で起きていることが、「平穏時のちょっとした変動」なのか「新たな破局噴火の前兆」なのかを見分ける術を持っていません。記事の中で研究者が言っているのように、2週間後に起きるかもしれませんし、1万年このままかもしれません。どんな火山にも噴火の可能性があり、言えるのは今活動が活発なのか穏やかなのかだけです。穏やかだからといって噴火しないとは限りませんし、活動的だからといってすぐに大噴火するとも限りません(日本に住んでいれば誰でも一つや二つは例を思いつきますよね)。人間にとって火山というのはそういうものです。

おそらく火山学者は誰よりそのことをよく知っています。彼らはその不可能に挑戦し、少しでも火山や地震の被害を減らすことに一生を捧げている人たちです。おそらくまっとうな火山学者なら軽々しく「2週間後に噴火する」などとは言わないでしょう(何度も書きますがハンク・ヘスラー氏もそんなことは言ってません)。最初に「見出しを見た瞬間に疑ってかかるような類の記事」と書いたのはそういう意味です。

ちなみにイエローストーン国立公園の営業時間はここで確認できます。今日も開いてますね;)
ref. Current Conditions – Yellowstone National Park (U.S. National Park Service)

Reference

  1. この手のニュースを見慣れた人なら、また「ロシアの声か…」という感じですね。ロシアの声は少なくともサイエンス関連についてはタブロイドレベルのかなりあやしいニュースを平気で流すメディアです。ここが情報の出どころならまずは疑ってみるのが吉でしょう
  2. どうやらイエローストーンの噴火が近いことを政府は隠蔽しているんだ、という陰謀論があるようです…orz

2014年に地球に接近した小惑星

orbview_20150106_001

ref. OrbView *WebGL版、マウスでぐるぐる回せます

これは、2014年に月の軌道よりも内側を通過した小惑星 36 35 個を全てプロットしたものです。

赤いラインはアポロ群と呼ばれる小惑星群。地球の軌道と交差し、軌道の大半が地球の外側にあるものです。黄色いラインはアテン群。地球の軌道と交差し、軌道の大半が地球の内側にあるもの。そして緑のラインはアモール群。地球の軌道とは交差しないものの地球の軌道に外接しているものです。この3つの小惑星群はNear Earth Object/NEO(地球接近天体、あるいは地球近傍天体)と呼ばれ、地球への衝突のリスクがある天体群として監視の対象になっています。

これらの小惑星は地球に非常に近づくため、接近の前後で軌道が大きく変化しています。ここで表示されているのは接近後の軌道であることに注意してください。

データ元のNASA Near-Earth Object ProgramのWebサイトからテーブルを一部転載しましょう。

Object Close-Approach (CA) Date CA Distance
Nominal
(LD/AU)
CA Distance
Minimum
(LD/AU)
V
relative
(km/s)
H
(mag)
(2014 AF5) 2014-Jan-01 16:13 ± < 00:01 0.3/0.0006 0.2/0.0006 14.62 28.8
(2014 AA) 2014-Jan-02 02:33 ± 02:13 >0.02/0.00004 >0.02/0.00004 36.62 30.9
(2014 AG51) 2014-Jan-09 07:54 ± < 00:01 0.3/0.0009 0.3/0.0009 15.04 29.9
(2014 AK51) 2014-Jan-08 09:09 ± < 00:01 1.0/0.0025 1.0/0.0025 9.28 26.6
(2014 AW32) 2014-Jan-10 21:40 ± < 00:01 0.5/0.0012 0.5/0.0012 12.37 27.5
(2014 DK10) 2014-Feb-21 11:27 ± < 00:01 0.7/0.0017 0.7/0.0017 12.02 27.7
(2014 DX110) 2014-Mar-05 21:00 ± < 00:01 0.9/0.0023 0.9/0.0023 14.85 25.7
(2014 EC) 2014-Mar-06 21:18 ± < 00:01 0.2/0.0004 0.2/0.0004 16.01 28.2
(2014 EF) 2014-Mar-06 03:20 ± < 00:01 0.4/0.0011 0.4/0.0011 15.09 28.9
(2014 EX24) 2014-Mar-09 14:35 ± 00:02 0.7/0.0018 0.7/0.0018 16.20 28.6
(2014 FT37) 2014-Mar-29 19:45 ± < 00:01 1.0/0.0026 1.0/0.0026 7.51 27.6
(2014 GY44) 2014-Mar-30 00:28 ± 00:01 0.4/0.0011 0.4/0.0011 12.50 25.4
(2014 GC49) 2014-Apr-03 02:59 ± 00:02 0.3/0.0008 0.3/0.0008 17.08 28.6
(2014 HL129) 2014-May-03 08:14 ± < 00:01 0.8/0.0020 0.8/0.0019 6.37 28.3
(2014 JG55) 2014-May-10 20:18 ± < 00:01 0.3/0.0007 0.3/0.0007 10.47 29.2
(2014 JR24) 2014-May-07 10:45 ± < 00:01 0.3/0.0007 0.3/0.0007 4.63 29.3
(2014 KC45) 2014-May-28 08:10 ± < 00:01 0.2/0.0006 0.2/0.0006 9.42 29.3
(2014 KW76) 2014-May-26 23:29 ± < 00:01 0.9/0.0023 0.9/0.0023 15.13 27.9
(2014 LN17) 2014-Jun-03 12:56 ± 00:02 0.6/0.0014 0.5/0.0014 24.68 27.0
(2014 LY21) 2014-Jun-03 22:27 ± 1_18:48 0.04/0.00011 0.02/0.00006 11.25 29.1
(2014 MH6) 2014-Jun-22 14:05 ± < 00:01 0.6/0.0017 0.6/0.0016 16.21 27.1
(2014 OM207) 2014-Jul-25 06:39 ± < 00:01 0.7/0.0018 0.7/0.0018 8.44 29.1
(2014 OP2) 2014-Jul-24 08:35 ± < 00:01 0.5/0.0013 0.5/0.0013 11.67 29.1
(2014 RA) 2014-Aug-31 23:48 ± < 00:01 0.1/0.0004 0.1/0.0004 13.25 28.9
(2014 RC) 2014-Sep-07 18:02 ± < 00:01 0.1/0.0003 0.1/0.0003 10.95 26.8
(2014 SG1) 2014-Sep-20 14:48 ± < 00:01 0.2/0.0005 0.2/0.0005 13.88 29.1
(2014 TL) 2014-Oct-01 15:59 ± < 00:01 0.3/0.0007 0.3/0.0007 11.13 27.7
(2014 UF56) 2014-Oct-27 21:22 ± < 00:01 0.4/0.0011 0.4/0.0011 12.07 27.4
(2014 UU56) 2014-Oct-19 11:02 ± 00:04 0.7/0.0017 0.7/0.0017 8.39 28.3
(2014 WE6) 2014-Nov-13 18:06 ± < 00:01 0.6/0.0015 0.6/0.0015 4.79 30.3
(2014 WJ6) 2014-Nov-15 16:12 ± < 00:01 0.9/0.0022 0.9/0.0022 14.64 27.1
(2014 WX202) 2014-Dec-07 20:09 ± < 00:01 1.0/0.0025 1.0/0.0025 1.67 29.6
(2014 XX39) 2014-Dec-03 06:56 ± 02:33 0.02/0.00004 0.02/0.00004 11.91 26.6
(2014 YR14) 2014-Dec-26 09:52 ± < 00:01 0.9/0.0023 0.9/0.0023 15.12 26.1
CA Distance:最接近距離(地心距離)、Nominalは最も可能性の高い距離、Minimumは最も接近した場合の距離。LD:Luna Distance=384,000km, AU:Astronomical distance Unit=150,000,000km。H:絶対等級

ref. NEO Earth Close Approaches/NASA Near-Earth Object Program(Public Domain)

CA Distanceが0.02LD/0.00004AUより小さい小惑星が2つありますが、これは最接近距離が地球半径より小さい、つまり地球に衝突したことを意味します(ただ、2014 XX39については国際天文学連合Miner Planet Centerのデータでは0.000154AUの所を通過したことになっています)。

(2015-01-09 19:00 JST 追記) 2014 XX39はMiner Planet Center、JPLともデータが削除されました。2014 XX39は幻の小惑星ということになりそうです。詳しくは末尾の追記を参照して下さい

もちろんここにリストアップされたのは見つかったものだけです。誰にも知られずに通過したものもあるでしょうし、あるいは誰にも知られずに衝突したものもあるかもしれません。なにしろ地球の7割は海ですし、人の住んでいない場所も沢山ありますからね。

さて、1年で30個超ということは、月軌道の内側に入ってくるような小惑星が少なくとも1ヶ月に2-3個は見つかっていることになります。小惑星の地球への接近というのは決して珍しい現象ではないんです。でも、毎回小惑星が近づくたびに大きく取り上げるメディアがあまり騒がないのはなぜでしょうか?実は、これらの小惑星の多くが通りすぎた後に見つかっています。また、事前に見つかったものでも、発見から最接近まで24時間を切るものが少なくありません。小型の小惑星は暗く、かなり接近しないと見つけられないんです。

通り過ぎた後に見つけても意味が無いじゃないか!と思う向きもあるかもしれませんが、さにあらず。先にも書いたように、こうした小惑星は地球など太陽系を回る惑星の重力の影響を受けて軌道を変化させます。今回はニアミスですみましたが、もしかしたら次は、あるいは次の次は衝突コースに乗っているかもしれません。たとえ通り過ぎた後でも小惑星を発見し、その軌道を精密に測定することはとても重要です。

では、地球に衝突しそうな小惑星を見つけたらどうするのか?結論から言えば、今できるのは屋内退避か避難だけです。小惑星の軌道を逸らせたり破壊したりする技術は様々な方法が提案されていますが、まだ現実的ではありません。将来的にそういった技術で積極的な対応を行うにしても、退避や避難という手段を取るにしても、小惑星を少しでも早く見つけ、正確な軌道と大きさを測ることが必要になります。

近年では、こうした小惑星を見つけるための専用の天文台や地球軌道上から観測する宇宙望遠鏡も設置され、かなり発見数が増えました。また、より発見率を高めるために、太陽を周回する軌道や、地球-太陽の重力が均衡する点(ラグランジュ点)に小惑星観測用の宇宙望遠鏡を設置しようという、Sentinel MissionNEOCamといった計画も提案されています。

地球に接近する小惑星の危険性が認識されるようになったのは90年台の半ば頃。さらにそうした小惑星を監視追跡する世界的なネットワークが構築され始めたのはごくごく最近のことです。気候変動の問題もそうですが、私たちは21世紀に入ってようやく人類共通の課題に取り組む能力と機会を得たのかもしれませんね。

追記: 幻の小惑星2014 XX39

上のリストに掲載されている 2014 XX39 は現在はMiner Planet Center、NASA/JPLのいずれのカタログからも削除されています。どうやらこれは、2014年12月3日に打ち上げられた「はやぶさ2」か、あるいは「はやぶさ2」を惑星間軌道に投入したH-IIAの第3段ではないかとのことです。

天文学者の阿部新助(阿部新之助)先生が、削除されたJPL Small Body Browserの2014 XX39のページの画面キャプチャをTwitterでツイートされていました。

これを見ると、観測されたのは12月6日から7日にかけてです。上のリストを見ると、地球への最接近日(衝突日)は12月3日、つまり発見より前に衝突している、ということになります。もちろんこんなことはありえません。考えられるのは、これが地球から分離した天体、つまり人工物だということです。12月3日に地球を離れた人工物は、はやぶさ2と3機の相乗り衛星、そしてH-IIAの第2段だけです。

明るさから考えて相乗り衛星ではありません。考えられるのは、探査機本体かH-IIAの第2段ですが…

明るさが短時間で変化するのは、その天体がいびつな形をしていて、しかも回転している場合です。制御をされなくなった人工衛星などではよく見られる現象ですね。はやぶさ2は太陽電池を太陽に向けた姿勢を取っているはずなので光度はさほど大きく変化はしないはず。というわけで、どうやら2014 XX39の正体は「H-IIAの第2段」の可能性が高そうです。

Referance

2013年 米国政府シャットダウンの自然科学分野への影響

2013-10-03 13:00 JST First Post
2013-10-04 10:00 JST USGS、FDAを追記
2013-10-04 10:45 JST MAVENの凍結回避について追記
2013-10-06 02:00 JST NRAOについて追記

2013年9月、米国議会において「医療保険改革法」をめぐって民主党と共和党が対立、新会計年度が始まる10月1日になっても暫定予算が承認されず、行政サービスの一時停止が敢行されました。緊急性の高いものを除き、多くの政府業務が停止、限られた職員で運用を行っている状態です。当然ながら、サイエンスの分野でも少なからず影響が出ています。

多くの研究機関などで業務が停止、日常的な業務や研究活動だけでなくWebサイトやSNSなどを通じた情報提供などが止まっています。これらの機関が運用しているデータベースなども、アクセスできなくなったりデータの更新が行われていないものがあります。また、一部の補助金の交付や承認、プロポーザルや論文などの受付も止まっているようです。こうした機関が主催するイベントなども中止されたり無期限延期になっているものがあります。

シャットダウン中は業務が緊急性の高いものに限定されているため、日常的なメンテナンスなどが止まっている部署も多いようです。そのため、機器などのトラブル対応が遅れ、それらの即応性が求められる業務に支障が出る可能性を指摘する声もあります。また、シャットダウンが明けても、その間に処理すべきだった業務が一斉に動きだし、通常業務が滞る可能性もあるとのことです。

これらの機関は海外の研究者との共同研究や共同プロジェクトを多数持っているため、そうした研究にも支障が出る事も考えられます。シャットダウンが長期化すれば米国内のみならず米国外への影響も大きそうです。

NASA: National Aeronautics and Space Administratio

アメリカ航空宇宙局(NASA)では、国際宇宙ステーションの維持管理など、クリティカルな業務に携わる職員600人を除くほぼすべての職員が自宅待機を命じられています。Webサイトも一部を残し、政府のアナウンスページにリダイレクトされている状態です。TwitterやFaceBookなどのSNSも更新を停止しています。オンラインで公開されていたデータベースなども多くがアクセスできない状態です。

ref. 2013年10月1日 米国政府閉鎖にともない次々と沈黙するNASA関連アカウント – Togetter

ただ、探査機や科学衛星の運用などを行っているジェット推進研究所(JPL)や応用物理研究所(APL)での業務は続けられているようです。JPLはカルフォルニア工科大、APLはジョンズ・ホプキンス大学が委託を受けて運用しているので、予算にバッファがあり運用が継続できているということのようです。ただ、WebサイトやTwitterなどはNASA本部の監督下で行われているので停止されているとのこと。長引くようなら独自の判断で情報発信をするかもしれないとも。

ref.American government shut down, but JPL and APL planetary missions still operating — for now | The Planetary Society

JPLのWebサイトにはアクセスできますが、アップデートされておらずコメントやメッセージにも返信できないというアナウンスが出ています。

ref. Space, Stars, Mars, Earth, Planets and More – NASA Jet Propulsion Laboratory

一方、11月18日に打ち上げが予定されている火星探査機MAVENへの影響が懸念されています。スケジュールには9日間のマージンがあり、打ち上げウィンドウは20日間あるとのことですが、シャットダウンが長引けばトラブル対応などへの余裕がなくなります。最悪打ち上げが中止になると次の打ち上げのチャンスは2年先になります。

ref. Maven mission to Mars focuses on atmosphere | FLORIDA TODAY | floridatoday.com

ref. [Updated] A Government Shutdown Could Delay MAVEN’s Launch to Mars | The Planetary Society

(2013-10-04 10:45 追記) どうやらMAVENはシャットダウンの対象からはずされ、作業が再開されたようです。

ref. Twitter / MAVEN2Mars

ref. NASA’s MAVEN Mission Spared from Shutdown | The Planetary Society

NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration

アメリカ海洋大気庁(NOAA)でも55%の職員が自宅待機、ただし気象観測衛星の運用や天気予報、ハリケーンや地震などの災害対応など緊急性の高い業務は継続して行われているようです。ただ情報発信は停止されていて、TwitterやFacebookのアカウントやWebサイトは閉鎖、サイト上の気象や災害関連のデータベースなどにはアクセスできません。ただし気象情報は NOAA National Weather Service (Wether.gov) で継続して提供されています。また太陽活動を監視している宇宙天気予報のサイト NOAA / NWS Space Weather Prediction Center もサービスを継続しているとのこと。

ref. Government Shutdown Affects Weather, Climate Programs | Climate Central

USGS: U.S. Geological Survey (2013-10-04 追記)

アメリカ地質調査所(USGS)も8600人いる職員のうち緊急対応を行う43人を除くほぼ全員が自宅待機となっています。Webサイトは閉鎖、緊急性の高いサイトのみが運用を続けている状態です。

ただし、Earthquake Hazards Programでは、地震のモニタリングは通常通り行われているが、情報の精度と即応性が落ちる可能性があるとのこと。また、Volcano Hazards Programでは、火山の監視は継続しているが、機器のメンテナンスが行われておらずモニタリング能力が低下する可能性があるとのこと。

CDC: The Centers for Disease Control and Prevention

疫病に対する対策などを行っているアメリカ疾病予防管理センター(CDC)でも68%の職員が自宅待機を命じられ、多くの業務が止まっているようです。緊急時の対応などについては継続して行われていますが、アウトブレイクの兆候を発見するための調査や研究、分析などに支障が出る可能性があるとのこと。

CDCのWebサイトそのものは閲覧できますが、情報の更新が行われず掲載されている情報が最新のものではない可能性があるという警告が掲載されています。

ref. CDC Shutdown: No In-Depth Investigations of Outbreaks – Washington Wire – WSJ

NIH: National Institute of Health

国立衛生研究所(NIH)では73%の職員が自宅待機を命じられているとのこと。NIHでは医療関係の多くの研究が行われていますが、こうした研究は止まっています。Webサイトはアクセスできますが、情報の更新が行われていない旨アナウンスが掲載されています。

NIHの附属病院では治験という形でまだ一般の病院では受けられない治療を行っていますが、新たにこうした治療を受けたいと望む患者は待たされるか他の方法を考えることになるだろうとのこと。ただし、現時点で進行中の治験については継続されているとのこと。

ref. NIH, CDC feeling government shutdown’s effects – CBS News

NIHでは医療関係の研究に対して補助金を交付していますが、これの受付が停止していることで、影響を受けている研究者も少なからずいるようです。

ref. NIH Feels Multiplying Effects of Government Shutdown: Scientific American

FDA: US Food and Drug Administration (2013-10-04 追記)

米食品医薬品局(FDA)では、通常の55%の人員で運用を行っているとのこと。医薬品や食品の安全性の監視について、緊急性の高いもの以外は行われておらず、通常の食品検査や輸入品の監視、企業などの検査、研究調査、地方の公衆衛生サービスへの支援などが止まっているようです。また、食品の安全、栄養、化粧品などに関する活動の支援も行えないとのこと。

ただし、州政府レベルでの監視業務は継続されており、安全性管理が行われていないわけではないようです。また、 United States Department of Agriculture (USDA)による食肉・家禽類関連の検査は継続されているとのこと(これはUSDAの検査なしでは操業を禁じられているため)。また、NOAAが行っている海産物の検査も継続中とのこと。

ref. Government shutdown halts FDA food inspections. Should you worry? – CSMonitor.com

Webサイトは公開されていますが、シャットダウン中は更新されていないという告知が出ています。

NSF: National Science Foundation

アメリカ国立科学財団(NSF)は医療分野を除く科学・工学分野の研究活動の支援を行っている研究費配分機関です。Webサイトは閉鎖、アクセスするとアナウンスのページに飛ばされます。補助金の交付は停止されています。プロポーザルなどの提出については、業務再開後にアナウンスされるとのこと。

ref. Government shutdown closes 3 of 4 National Radio Astronomy Observatories | The Planetary Society</a

NRAO: National Radio Astronomy Observatory (2013-10-06 追記)

米国国立電波天文台も10月4日に閉鎖されたとのこと。10月1日からの数日間は昨年度予算の繰越金で運用されていましたが、それが尽きたという事のようです。NRAOはNSFのファンディングを受けて活動していますが、10月1日よりNSFが活動を停止したため、NRAOもー停止を余儀無くされました。Webサイトも閉鎖され、アナウンスのページへ飛ばされます。

これにより、VLA(映画コンタクトで有名ですね)、VLBI、グリーンバンク電波天文台を含む複数の電波天文台が閉鎖されたとのこと。また、アレシボ天文台も余剰資金が2週間分ほどしかないため、閉鎖が懸念されているようです。国際共同で運用されているALMAはまだ大きな影響はないとのこと。

ref. The Latest Shutdown Information for NIH- and NSF-Funded Researchers (UPDATE) | Science Careers

Reference

United States federal government shutdown of 2013 – Wikipedia, the free encyclopedia

Impact of a government shutdown on federal agencies – The Washington Post

6 Ways Government Shutdown Will Impact Science, Health | LiveScience

U.S. Government Shutdown Looms After Senate Vote | Science/AAAS | News

Breaking News:アメリカ国家偵察局がNASAに監視衛星のスペアを供与

2012年6月5日、アメリカ国家偵察局がNASAに2機分の監視衛星のスペアをNASAに供与するというニュースが流れてきました。これは4日付けのWashinton PostとNewYork Timesが報じたもので、これを受けてNASAが記者会見を開いたようです。

2紙の記事、およびNASA WatchのTwitterアカウント @NASAWatchでの記者会見の内容をざっくりまとめるとこんな感じ。

  • アメリカ国家偵察局がNASAに2機分の監視衛星のスペアを供与
  • 供与されるのは主鏡と副鏡、鏡筒、ラジエーターなど
  • カメラなどの観測機器、ソーラーパネルや姿勢制御装置などは含まれていない
  • 主鏡直径2.4-meter、ハッブル宇宙望遠鏡の100倍の視野
  • 主鏡はハッブルより軽く、焦点距離はより短い。全体の大きさはハッブルの半分
  • 現在は製造された工場に保管されている
  • 現時点ではNASAではこの件についてはまだ予算化されてない
  • 打ち上げにはアトラスVやファルコン9のような大きなフェアリングを持った打ち上げ機が必要
  • 望遠鏡と通信するための地上施設も必要
  • 計画中のWide Field Infrared Survey Telescope: WFIRSTに使えるかもしれない

WFIRSTは2024年に打ち上げが計画されているダークエナジーや系外惑星の観測を目的とした広視野宇宙望遠鏡。全米評議会(United States National Research Council)で次の10年のトッププライオリティプロジェクトに選出されています。もしこのNROから供与された望遠鏡が使えればもっと早く観測に入れるかもしれないとのこと。

どうやら、この件は2012年6月4-7の日程で行われているNational Academyの天文学・宇宙物理学の委員会で公表されたもののようです。
ref. BPA: Board on Physics and Astronomy

ページ最下段からリンクされた資料のうち “New Developments in Astronomy and Astrophysics”と”Implication of New Developments for the Astronomy and Astrophysics Decadal Survey”が当該プロジェクト関連の資料ですね。

後者の資料中に機体と思しき写真が公開されています。機密が解除されたという割にはあちこち黒塗りですが、確かにハッブルに似た、より全長の短い機体が写っています。

Wikipediaから取得(当該資料から転載されたもの)/Public Domain

識者によれば、おそらくこれはKH-11 Kennan のものだろうとのこと。KH-11は70年代に開発されたキーホールシリーズの一つ、センチメートルオーダーの解像度を持つといわれるスパイ衛星です。


さて、ここからは筆者の推測です(鵜呑みにしちゃダメですよ)。

最大の問題は予算ですね。この緊縮財政のおり、開発費が押さえられるとはいえもう一機宇宙望遠鏡を飛ばすとなるとそれなりの予算が必要です。打ち上げ費用も必要ですし、運用体制も整えなければなりません。供与されるのは筐体と鏡だけですから、使えるものにするためにはさらに開発が必要です。そんな予算どこにあるの?というお話。

WFIRSTプロジェクトで使えるかもという話ですが、WFIRSTは全米研究評議会でトッププライオリティに上げられているとはいえ、当然まだ開発については予算化はされていません。鏡もらったから作るね、とはいかないはずです。

NASAはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の打ち上げを2018年に予定しています。宇宙科学系の予算がかなりそっちに割かれていることを考えると、新たにもう一つ宇宙望遠鏡を上げるというのは予算面での風当たりも強そうです。スケジュールが伸びに伸びてキャンセルの瀬戸際までいってようやく復活したJWSTの予算が切られるなんてことにならないといいんですが…

ちなみに、今回供与された望遠鏡は、広視野の可視光/近赤外線望遠鏡です。サーベイ観測とよばれる広い範囲を観測して面白そうな天体を見つけたり、たくさんの天体をいっぺんに観測して統計的なデータを取ったりといった分野で威力を発揮するはず。その意味では口径の大きな高分解能の望遠鏡で狭い領域を詳しく観測することを目指すJWSTとは相補的な関係です。必ずしもどちらかがあれば、どちらかはいらない、という類のものではないはず。

もう一つの問題は、これがまだ議会の承認を得ていないということ。NASAは国家機関ですから議会の承認なしでは動けません。あげるといわれて、じゃあもらいます、とはいかないはず。宇宙開発に予算を割くことに反対する立場から見れば、議会の承認も得ずに何勝手なことをやってるんだ、というところでしょう。まだ黒塗りの画像が上がってくるところを見ても、安全保障上の問題が全てクリアにはなっていないような印象を受けます。どう転ぶにしてもあちこちに波紋を呼びそうですね。

Referance

太陽を見る時に覚えておいてほしいこと

日食の話をしましょう。2012年5月21日に日本全国で金環日食が見られます。国内で見られる日食としては2009年以来約3年ぶり、これほど広い範囲で見られるのは数百年ぶりの機会です。どこでどんなふうに見られるか、どうやってみたらいいのかについてはあちこちに沢山解説があるのでそちらに譲ります。
ref. 2012年5月21日 金環日食 (国立天文台)
ref. 「金環日食2012」特設サイト (アストロアーツ)

ここでお話したいのは日食の観察の時に気をつけなくちゃいけないことの方です。もう聞き飽きているかもしれませんが、せっかくなので少し違う話をしたいと思います。

日食の解説をしているサイトにも注意事項が沢山乗っていますよね。あれをしちゃダメ、これをしちゃダメ…色々書いてありますが、でもなんでダメなんでしょうか?それは太陽の光と人間の目の性質に深い関係があります。今からするのはそういうお話です。

金環日食と皆既日食

そのまえに、今回おきる金環日食の見え方について少し説明しておきましょう。ご存知の通り日食というのは月が太陽の前を通る現象ですが、金環日食というのは太陽より月の方が微妙に小さい状態のことです。金環日食では太陽は完全には隠れません。太陽観測メガネ越しに見ると、太陽がリング状になります。こんな感じ。

Image: sancho_panza (CC-BY)

一方で月が太陽を完全に覆い隠すのは皆既日食。2009年に日本の南方でおきたのはこちらです。こんな感じです。

Image: Zeinab Salarvand (CC-BY)

金環日食では太陽が完全には隠れないので、皆既日食の時のように食が最大の時でも周りが暗くなったりはしません。人間の目は明るさに順応するので多分知らなければ外にいても日食がおきていることには気付かないでしょう。太陽の周りを覆うコロナも見えませんし、日食中はずっと太陽観測メガネが必要です。前回、2009年の皆既日食の様子を想像していると、たぶんかなり感じが違います。食が最大になったり、コロナが見えなかったりしても、絶対に観測メガネを外しちゃダメです。

なぜ太陽を直接見てはいけないのか

さて、本題に入りましょう。覚えておいて欲しいことは2つ。太陽を見るときに気をつけなければいけないことは、ほぼ全てこの2つがその理由です。

  1. 太陽を見るのは虫眼鏡で光を集めるのと同じ
  2. 太陽は目に見えない光を沢山出している

子供の頃、虫眼鏡で太陽の光を集めて遊んだことがありますよね。黒い紙に光を集めて穴を開けたり燃やしたりしたのを覚えていますか?おおざっぱに言えば太陽を見るというのはあれと同じです。人間の目には水晶体というレンズの役割をする組織があります。人間の目はこの水晶体で目の後ろにある網膜という組織に光を集めることでものを見ています。当然、太陽を見ると水晶体で集められた光が、網膜の上の一点に集まります。小さいとはいえ水晶体は立派なレンズですから、理屈としては虫眼鏡と同じです。

確かに水晶体は小さいですが、太陽の光の強さをバカにしちゃいけません。太陽を直視するとわずか1秒程度でも目の組織が損傷を受けるとも言われています。実際に、日食の観測や宗教的な行事で裸眼で太陽を直視していた人に、視力が低下したり、失明したりという例があるそうです。多くは一時的なものですが、障害が残った例も報告されています1

あちこちで太陽を見るな、と言われているのはこういう理由。太陽の光というのはとても強力なんです。

なぜサングラスじゃダメなの?

とはいえ、人間は強い光を見ると苦痛を感じるようにできているので、かなり無理をしないと何秒も太陽を見ていることは出来ません(やっちゃダメですよ)。普通は眩しくてみていられないんですね。

でも、ここに落とし穴があるんです。先ほどの2つ目の理由を思い出してください。実は太陽は赤外線や紫外線といった目に見えない光も沢山出しています。でも、人間が眩しさを感じるのは可視光と呼ばれる目に見える光だけ、赤外線や紫外線はあまり苦痛を感じません。

よく日食の解説に「日食観測は下敷きやサングラスではなく専用の日食観測メガネを使ってください」と書いてあるのはこれが理由です。下敷きや写真のフィルム、煤をつけたガラスなんかは、可視光は遮りますが赤外線や紫外線は通してしまうんです2 。一見暗くなっているので大丈夫そうですが、太陽の光に対してはザルで水を掬うみたいなものです。穴だらけ。

これが可視光ならば眩しくて目を細めたり、目をそらせたり、目の中の虹彩と呼ばれる組織がきゅっと縮まって入ってくる光を最小限にしたりします。でも、赤外線や紫外線はあまり眩しさを感じさせないので、こういう反応が起きにくいんです。逆に、サングラスや下敷きを使うと視界が暗くなって、瞳が大きく開かれ、苦痛を感じない分長く見られてしまいます。

これが大変危険な状態なのは想像がつきますよね。もし指先が苦痛を感じなければ、火を扱うたびに気づかずに大やけどをしてしまうでしょう。大げさにいえばサングラスや下敷きで太陽を見るというのはそういうことです。

ちょっと気をつけた方がいいのはカメラ用の減光フィルター、あれはカメラのフィルムやセンサー用に作られているので結構紫外線や赤外線を通します。専用品だからといって人間の目に適しているとは限りません。フィルターはちゃんと説明書を読んで適した用途のものを使って下さいね。

というわけで、日食を見るときは必ず太陽観測グラスを使ってください。絶対に裸眼で見ないように3

太陽を写真に撮るときの注意

さて、せっかくの機会だから写真に撮って残したい、と思っている人も多いでしょう。でもこれ、目で見る時より気をつけなくちゃいけないことが沢山あります。

もういちど虫眼鏡の実験を思い出してください。レンズが大きければ大きいほどたくさんの光を一点に集めることができます。たとえば人間の瞳のサイズは5mmくらい、カメラのレンズが50mmだとすれば面積はちょうど100倍。これは100倍たくさんの光を集めることができるということです。

今度は比喩ではなく本当に虫眼鏡で光を集めるのとまったく同じ。光が集まった先に何があるのかよく考えてください。

双眼鏡、望遠鏡、一眼レフやコンパクトデジカメのファインダーなどは絶対に覗いてはいけません。裸眼で見るよりずーーーっとずーっと危険です。望遠鏡やカメラの画角は小さいので、ついファインダーを覗きながら探してしまいそうですが、絶対にやめてください。一瞬でもとても危険です。場合によっては眩しいと感じている暇もないかもしれません。

太陽観測メガネをかけていてもダメです。これ、実はものすごく危ないんです。多くの観測メガネの遮光フィルムは熱に弱い樹脂製です。しかも色は黒。おそらくレンズで集められた太陽の光とその熱で簡単に穴が開いてしまいます。そうなったら裸眼で直接レンズを覗きこむのと同じです。絶対やっちゃダメです。

たとえ穴があかないとしても、観測メガネは裸眼でちょうどいいように作られているので、レンズで集められた光に対してはまるで性能が足りません。なにしろ100倍ですからね。

Image: @ALUMII

日食グラスをレンズの先にあてがうのもおすすめしません。先程も言ったように、日食グラスはせいぜい直径数ミリの人間の瞳のサイズに合わせたものなのでカメラのレンズ越しでは性能が足りませんし、それに万が一ずれたりしたらとても危険です。

じゃあ直接見なければいいかというと、フィルターを付けずにカメラを太陽に向けると、太陽の光はセンサーやシャッターの上に集まります。当然かなりの高温になりますから精密機器は壊れてしまうかもしれません。望遠鏡でもフィルター無しで長時間太陽に向けていると接眼レンズが壊れてしまうことがあります。太陽の光というのはそれぐらい強いんです。

できれば、カメラで太陽を撮影するためのに専用のフィルターがあるので、それを使うことをおすすめします。もちろん、撮影の際には絶対にファインダーを覗かず、液晶画面で画角を決めてください。先ほどの話を少し思い出して下さい。カメラの減光フィルターの中には赤外線や紫外線を通してしまうものがあります。フィルターをつけているからといって、むやみにファインダーを覗かない方がいいです。

そうそう、太陽にカメラを向けるときは、たとえファインダーから目を外した状態でも裸眼で太陽を見ないように気をつけてくださいね。カメラを覗かずにちゃんと太陽にカメラを向けるのはけっこう難しいです。撮影に慣れた人に聞くと影を使ってカメラの向きを決めるのがコツとのこと。三脚に固定し、レンズをまっすぐ太陽に向けるとレンズの影が本体に落ちなくなります。これを利用してカメラの向きを決めるといいそうです。

太陽の撮影はなかなか大変です。機材も色々いりますし、特別なノウハウやテクニックも必要です。カメラでの撮影は慣れた人に任せるのがいいかもしれません。折角のチャンスですから、太陽観測メガネ越しに自分の目で見るのもいいんじゃないでしょうか。

日食メガネを使ってみましょう

さて、太陽観測メガネはもう手に入れましたか?もし手元にあるならば、本番までしまっておいたりしないで予行演習をしましょう。外に出て掛けてみてください。まずはいきなり太陽を見ないで周りを見てみましょう。ちゃんとしたメガネなら晴れている日に外に出てもほとんどまっ暗で何も見えないはずです。

そりゃそうですよね、あれだけ強い太陽の光を直接見ても大丈夫なくらいまで暗くするフィルタですから、普通の風景はぜんぜん見えません。視界もかなり狭いです。かけたまま移動は出来ませんね。転んだりしたらかなり危なそうです。車道や足場が不安定な場所で見るのは止めたほうがいいかもしれません。屋上なんかで見る人は足元に充分気をつけてくださいね。

さて、ここでちょっと困ったことがあります。実際にやってみれば分かりますが、そのままの状態では太陽がどこにあるかわかりません。だからといってメガネを外して太陽を探しちゃダメです。何度も書いている通り裸眼で太陽を見るのは危険です。じゃあどうすればいいでしょうか?たとえばこういうやり方です。

地面に落ちる自分の影を見て下さい。太陽は影が落ちている方角の真反対にいます。そして、あなたの頭とあなたの頭の影を結ぶ線を延長した先に太陽があります。だいたい位置がわかりましたか?では、足元を見ながら自分の影が自分の真後ろに来るように立ちましょう。太陽は正面にあるはずです。まだ顔を上げちゃダメですよ。下を見たまま観測メガネを付けます。そこから観測メガネをしたまま顔を上げれば太陽が視界に入ってくるはずです。慣れれば簡単ですが、ちょっとコツが要りますね。

そうそう太陽観測メガネといっても遮光は完全じゃありません。あまり長時間連続してみないように、長くても2、3分を目安に目を休ませてあげてください。大丈夫、日食とはいえいきなり欠けたりはしません。1、2分休んでも見た目は殆ど変わらないはずです。

さて、長々と書きましたが、まとめればこういうことです。

  • 太陽を見るときは、必ず太陽観測メガネを使ってください
  • たとえ太陽観測メガネを付けていても、カメラのファインダーや双眼鏡を覗いたりしないで下さい
  • 観測や撮影をするときには、太陽を直接見ないように手順などにも十分注意してください

ここまで読んで下さったのなら、これが当たり前だということはもうお分かりですよね。そして、それにちゃんと理由があることも。理由がわかっていれば、何に気をつければいいかもわかるはずです。色々脅し文句を書きましたが、太陽を見るのはなかなか楽しい体験です。ちゃんと観測メガネの使い方がわかっていれば、さほど危険ではありません。またとない機会です、是非楽しんでください。

そうそう日食メガネは捨てないでくださいね。次の日食は随分先ですが、今年の6月6日には金星が太陽の前を通る日面通過という現象もあります。観測メガネがあれば肉眼でも見えるはずです。時々肉眼で見えるほど大きな黒点が出ることもあります。

そういう特別なイベントじゃなくても、たまにメガネを引っ張り出してぼーっと眺めるのもなかなか楽しいです。あそこに見えているのが地球に一番近い恒星です。とても身近な星ですが、なにしろやたらと明るいので直接見る機会はなかなかありませんからね。

さて、後は当日が晴れるのを祈るだけです。天気がいいといいなあ。

追記

これは太陽に向けた双眼鏡の後ろに紙コップを掲げるデモンストレーションです。この感じだとおそらく樹脂製の観測メガネは一瞬ですね。

こちらは倉敷科学館さん制作のビデオ。観測メガネへのテスト映像もありますが、大きめの望遠鏡での実験とはいえ、予想通りの結果ですね。

追記

どうやら遮光効果が不足している太陽観測メガネが販売されているようです。いまいちど購入した製品が安全なものかどうかをチェックすることをお勧めします。

  • 室内の蛍光灯を見て、一見して明るく、形がはっきりと見える製品は避ける
  • 透過率は可視光線で0.003%以下、赤外線で3%以下を目安に
  • LEDライトなどの強い光にかざした時に、ひび割れや穴が確認できるものは避ける

詳しくは下記のサイトなどを参照して下さい。

ref. 2012年金環日食日本委員会
ref. 日食観察&撮影時に「忘れちゃだめ」なこと。 – Togetter

Reference

  1. その時大丈夫でも数時間から数日たってから症状が出る例もあるので、もし異常を感じたらお医者さんにいってくださいね
  2. 昔は太陽観測メガネなんてなかったじゃないか、という方もいらっしゃるかもしれません。おっしゃるとおり、今から思えば随分危ないことをしていたものです。今は日食メガネを使ったほうがいいということで専門家の意見も一致しています。安全に越したことはないですからね
  3. ピンホールカメラの原理を利用して壁面に映したり専用の投影板を使う方法もあります。こちらはより安全ですが、ここでは最も普及していると思われる太陽観測メガネを使う時の注意点について説明します。こうした方法については本稿末尾の参考資料などを参照して下さい。

日本の宇宙開発を変えた一台のキーボード

はやぶさの帰還からちょうど1年たった2011年6月13日、東京国際フォーラムにて、20世紀FOX映画『はやぶさ』の公開を記念したプレスイベントと、期間限定の情報施設「はやぶさi」の内覧会が行われました。

プレスイベントや展示の内容は各メディアやブログですでにたくさん紹介されていますので、ここではちょっと違う話をしましょう。ご紹介したいのは、この「はやぶさi」の展示品の一つです。

はやぶさiの片隅に一台のキーボードが飾られています。栄養ドリンクの箱に支えられた古びたキーボード。始めて見る人は、なんでこんなところにキーボードが?と思うかも知れません。でも実はこれは日本の宇宙開発の歴史に残るキーボードなんです。

名前のラベルからもわかるように、これは当時カメラチーム/広報担当だった寺薗淳也先生が所有されていたもの。「はやぶさ」が小惑星イトカワにタッチダウンしたあの夜、運用室からブログのリアルタイム更新をしていたキーボードです。もちろん当時使われていた本物です。

覚えている人もいるかも知れません。タッチダウンの夜、運用室の様子はネット上にストリーミング配信され、ブログに逐一はやぶさの現状がアップデートされていきました。どんどん近づいていくはやぶさとの距離、運用室のテーブルの上に増えていく栄養ドリンク、タッチダウン、的川先生が配信画面に向けて立てた親指、その後の「セーフホールドモード」の報、… 画面のこちら側の我々は、中継の画面に動きがあるたび、ブログの更新があるたびに、文字通り手に汗を握って推移を見守っていました。

このイトカワへの着陸に先立つ2004年5月はやぶさの地球スィングバイの時にも、中継こそなかったものの、はやぶさが撮影した地球の画像がほとんどタイムラグなしでWebサイトに掲載されていました。いままさにクリティカルな運用を行っているその現場から映像と情報がリアルタイムで届けられる、日本の宇宙開発でこんなことをやったのは、知る限り「はやぶさ」プロジェクトが初めてです。

この中継を担っていたのが、寺薗淳也・齋藤潤先生をはじめとした「はやぶさ」の広報チームでした。最初は内部でも難色を示す声もあったようです。そりゃそうでしょう。何かトラブルがあれば、それがそのまま流れるわけですから… そして残念なことにそれは現実のものとなりました。その経緯はここで詳しく述べるまでもないでしょう。

工学的な偉業として語られる「はやぶさ」ですが、その広報のアクティブさ、自由さはそれまでの日本の宇宙開発の広報を知る人にとっては驚異的な出来事でした。「はやぶさ君の冒険日誌」、「今週のはやぶさ君」、帰還特設サイトTwitterでの情報発信… その広がりとスピードは枚挙にいとまがありません。そしてこの広報スタイルは、あかつき、イカロスチームに継承され、宇宙科学研究所のひいてはJAXAのスタンダードとなりつつあります。

もしあの時、広報チームがこれまで通りのニュースリリースと記者会見による広報活動だけをしていたら、最終的に「はやぶさ」がこれほどまでに人々の関心を引いていたでしょうか?確かに、はやぶさプロジェクトはまれに見るほどドラマティックなミッションでしたし、素晴らしい成果を残しました。でも、それを伝える広報チームの活躍が無ければ、その物語が我々の元にとどくことは無かったのではないかと思います。

先に行われた映画の記者会見の中でJAXA名誉教授の的川泰宣先生がこういうコメントをされていました。

かつてアポロの月への着陸を見守った子供たちがアポロ世代となって、宇宙開発の一翼を担ったように、いま確実に『はやぶさ世代』と言える子供たちが育ちつつある。

テレビ番組や書籍が次々と作られ、今回の記者会見が行われた「はやぶさ」をはじめとして現在複数の映画の企画が進行中です。そして、期間限定とはいえ「はやぶさi」という専用の展示施設まで作られました。こんな探査機は世界中を探してもほかに例がありません。

もし、東京有楽町の「はやぶさi」に行く機会があったら、せひこのキーボードを探してみてください。大丈夫、とても目立つ場所に置いてあります。そうしたら、ちょっと周りを見渡してみてください。このキーボードの上で始まったことが、とうとうこんなところまでやってきました。

Hayabusa Information Center

これは世界に誇るべき、はやぶさプロジェクトのもう一つの成果です。

Reference

ref. はやぶさi – HAYABUSA INFORMATION CENTER

ref. Hayabusa Live » Archive

ref. 青春の方眼紙: 関係者からのメッセージ│はやぶさ、地球へ! 帰還カウントダウン

20世紀FOX 『はやぶさ』 & 「はやぶさi」関連情報

ref. 映画『はやぶさ』公式サイト 10.1 ROADSHOW

ref. 20世紀フォックス主催「はやぶさ」帰還1周年記念イベント速記(未編集につき注意) | 人生ご縁となりゆきで

ref. 文系宇宙工学研究所 「はやぶさ」帰還1周年イベント&はやぶさi

ref. 映画/竹内結子 専門用語に脱帽? 「宇宙って広いんだな」 – cinemacafe.net

ref. 「はやぶさ」の帰還一周年! 記念イベントに映画主演の竹内結子さんが登場- エキサイトニュース

 

Day of Remembrance

1967年1月27日アポロ1号、1986年1月28日スペースシャトル・チャレンジャー、2003年2月1日スペースシャトル・コロンビア、なぜかアメリカの有人宇宙開発の重大事故はこの時期に集中しています。

NASAでは、スペースシャトル・チャレンジャーの事故が起きた今日1月28日を「Day of Remembrance」として、事故で亡くなった宇宙飛行士たちを記念する日としています。

上記3つの事故だけでなく、これまでミッション中に亡くなった宇宙飛行士は18人、テスト中/訓練中に亡くなった宇宙飛行士は12人います。ここに謹んで哀悼の意を表したいと思います。

1961年3月23日 減圧訓練中の火事

  • ヴァレンティン・ボンダレンコ(Valentin Bondarenko) – ソビエト連邦

1964年10月31日 訓練機が墜落

  • セオドア・フレーマン(Theodore Freeman)- アメリカ合衆国

1966年2月28日 訓練機が墜落

  • チャールズ・バセット(Charles Bassett)- アメリカ合衆国
  • エリオット・シー(Elliot See)- アメリカ合衆国

1967年1月27日 アポロ1号 打ち上げリハーサル中に火災

  • ロジャー・チャフィー(Roger Chaffee)- アメリカ合衆国
  • ガス・グリソム(Gus Grissom)- アメリカ合衆国
  • エドワード・ホワイト(Edward White II)- アメリカ合衆国

1967年4月24日 ソユーズ1号 帰還時にパラシュートが開かず

  • ウラジミール・コマロフ (Vladimir Komarov) – ソビエト連邦

1967年10月5日 訓練機が墜落

  • クリフトン・ウィリアムズ(Clifton “C.C.” Williams)- アメリカ合衆国

1968年3月27日 訓練機が墜落

  • ユーリ・ガガーリン(Yuri Gagarin)- ソビエト連邦

1971年6月30日  ソユーズ11号 帰還時の減圧事故

  • ゲオルギー・ドブロボルスキー(Georgi Dobrovolski) – ソビエト連邦
  • ビクトル・パツァーエフ(Viktor Patsayev) – ソビエト連邦
  • ウラディスラフ・ボルコフ(Vladislav Volkov) – ソビエト連邦

1986年1月28日  スペースシャトル・チャレンジャー STS-51-L 打ち上げ時に爆発

  • グレッグ・ジャービス(Greg Jarvis) – アメリカ合衆国
  • クリスタ・マコーリフ(Christa McAuliffe)  – アメリカ合衆国
  • ロナルド・マクナイア(Ronald McNair)  – アメリカ合衆国
  • エリソン・オニヅカ(Ellison Onizuka)  – アメリカ合衆国
  • ジュディス・レズニック(Judith Resnik)  – アメリカ合衆国
  • マイケル・J・スミス(Michael J. Smith)  – アメリカ合衆国
  • ディック・スコビー(Dick Scobee)  – アメリカ合衆国

1993年7月11日 救難訓練中に水死

  • セルゲイ・ヴォゾヴィコフ(Sergei Vozovikov)- ロシア

2003年2月1日  スペースシャトル・コロンビア STS-107 帰還時に空中分解

  • マイケル・アンダーソン(Michael P. Anderson) – アメリカ合衆国
  • デイビッド・ブラウン(David M. Brown) – アメリカ合衆国
  • ローレル・クラーク(Laurel B. Clark) – アメリカ合衆国
  • カルパナ・チャウラ(Kalpana Chawla) – アメリカ合衆国
  • リック・ハズバンド(Rick D. Husband) – アメリカ合衆国
  • ウィリアム・マッコール(William McCool) – アメリカ合衆国
  • イアン・ラモン(Ilan Ramon) – イスラエル

2014年10月31日 スペースシップ2 VSSエンタープライズ テスト中に空中分解

  • マイケル・アルズベリー(Michael Alsbury) – アメリカ合衆国

Reference

NASA – Day of Remembrance

List of spaceflight-related accidents and incidents – Wikipedia, the free encyclopedia

リンの代わりにヒ素を使って生きるバクテリアを発見

いつの間にか「地球外生命体の発見」ということになっていてずいぶん盛り上がったNASAの発表ですが、実際は「リンの代わりにヒ素を使う生物の発見」というものでした。

ref. NASA-Funded Research Discovers Life Built With Toxic Chemical (NASA)

(なーんだ、がっかり…)

いえいえ、これ、本当にすごいことなんです。リンは、生物の体の中で遺伝情報をつかさどるDNA、体を構成するたんぱく質、エネルギーの代謝を行うATPなど、これがなかったら生き物じゃない、みたいな主要な部分に使われている元素です。これがほかの元素に入れ替わっていた、というのは生物の教科書を書き換えなくちゃいけないほどの大ニュース。

これまで地球の生物は炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、リンを主要な構成元素とすると考えられてきました(もちろんほかの元素も使われていますが、割合はもっと下がります)。今回、この主要元素のうちリンがヒ素で置き換わっている生物が見つかった、ということになります。 リンとヒ素は性質がとてもよく似ていて、もしかしたらこういう生物がいるかもしれないとはいわれていましたが、本当に見つかったの初めて。

普通に考えれば、じゃあほかの元素だって…ということになりますよね。これが今回の発見の一番すごいところ。生命というものの地平線を一気に広げてしまったんです。生命を形づくる基本元素と思われていたものに、地球上ですら例外がありました。まして地球とは全く異なる環境なら、もっと違う組成を持った生物がいても不思議はありません。

今日、世界中の微生物学者の目が変わりました。たぶん、ここから新しい発見がどんどん出てくるでしょう。これはそういう研究です。

GFAJ-1 Image: NASA

これが、今回見つかった「GFAJ-1」という微生物。発見されたのはカリフォルニア州のモノレイク。こんな場所です。

Image: NASA

モノレイクは塩分の濃度が非常に高く、アルカリ性で、ヒ素の濃度も高いことで知られていて、こうした極限環境の生物を研究している研究者にはよく知られた場所。以前にも、この湖でヒ素を光合成の材料に使う生物が見つかったりしています。

今回の研究は、この湖から採取したGFAJ-1を、リンを含まず、ヒ素だけを含む環境で培養してみたら増えた、というもの。リンとヒ素の両方を含む環境の方が増殖が速かったものの、ヒ素を含まない環境ではほとんど増えませんでした。これはGFA-1がリンではなくヒ素を使って増殖しているということを意味しています。実際、GFA-1の体内を調べてみたところ、リンが使われているはずの場所にヒ素が使われていました(ただし、完全にヒ素に入れ替わっているわけではなく、リンも使われていたようです)。

今回の発見は、宇宙生物学の分野だけでなく、生命の起源の議論にも影響を与えるものです。実際、今回の発見をしたFelisa Wolfe-Simonさんは、我々を含むリンを主体とする生物より前に、こうしたヒ素を主体とする生物が生まれていた可能性を指摘しています。

今後、さらに詳しく調査が行われれば、生命の起源の謎がまた一つ解き明かされるかもしれません。

余談

というわけで、予想は悪くない線を行っていましたが、現実の方がさらに予想を上回っていました。Felisa Wolfe-Simon さんの研究からヒ素に注目したのは悪くなかったんですが…

今回、世界中のメディアやブロガーが予想を出していましたが、日本人の宇宙生物学の研究者の方が的中させていました。すごい!

ref. [NASA会見]DNAにヒ素をもつ生物の発見 (むしブロ)

Reference

NASA-Funded Research Discovers Life Built With Toxic Chemical (NASA)

NASAの論文要旨 (日本経済新聞)

Get Your Biology Textbook…and an Eraser! (NASA Astrobiology)

Searching for Alien Life, on Earth (Astrobiology Magazine)

A Bacterium That Can Grow by Using Arsenic Instead of Phosphorus (Science/AAAS )

Arsenic-eating microbe may redefine chemistry of life(Nature News)

砒素で光合成するバクテリア:原始の地球環境を解明する手がかり (WIRED VISION)

[NASA会見]DNAにヒ素をもつ生物の発見 (むしブロ)

NASAが宇宙生物学上の発見について記者会見

News Release

アメリカ東部標準時12月2日午後2時、日本時間翌3日午前4時にNASAが宇宙生物学上の発見に関して記者会見を行う、と発表しました。

NASA Sets News Conference on Astrobiology Discovery; Science Journal Has Embargoed Details Until 2 p.m. EST On Dec. 2

すわ、地球外生命の発見か!と言いたいところですが、多分違います。根拠はリリースの文言。

NASA will hold a news conference at 2 p.m. EST on Thursday, Dec. 2, to discuss an astrobiology finding that will impact the search for evidence of extraterrestrial life. Astrobiology is the study of the origin, evolution, distribution and future of life in the universe.

NASAは、東部標準時12月2日(木)午後2時から、地球外生命が存在する証拠探しに大きなインパクトを与える宇宙生物学上の発見について記者会見を行います。宇宙生物学とは宇宙での生命の誕生、進化、伝播、そして将来についての研究です。

なんだか微妙な表現です。必ずしも宇宙で何かを見つけた、という内容でなくても当てはまりそうです。むしろ、新しい研究手法につながるような発見があった、というように読めますね。

記者会見の内容を勝手に予想

では、どんな発表なんでしょうか?せっかくなので少し予想してみましょうか。ヒントは記者会見に登場するメンバーにありそうです。

Mary Voytek, director, Astrobiology Program, NASA Headquarters, Washington
Felisa Wolfe-Simon, NASA astrobiology research fellow, U.S. Geological Survey, Menlo Park, Calif.
Pamela Conrad, astrobiologist, NASA’s Goddard Space Flight Center, Greenbelt, Md.
Steven Benner, distinguished fellow, Foundation for Applied Molecular Evolution, Gainesville, Fla.
James Elser, professor, Arizona State University, Tempe

上から順番に、NASAの宇宙生物学プログラムの偉い人、酸素や水を使わずに光合成するバクテリアの研究をしている人、火星で生命の兆候を探すための探査機を計画している人、「生命の兆候(バイオマーカー)」を検出する研究をしている人、生物の進化の過程で重要な役割を果たす化学反応を研究している人。

うーん、このメンバーを見ても、地球外生命の兆候発見!みたいな話じゃなさそうですね。

もし、探査機が何か見つけたなら、たぶんそのプロジェクトから人が来るはずです。将来の探査機計画にかかわっている人は複数いますが、既存の探査機の中心メンバーがいないので、そっち方面じゃなさそう。むしろ極限環境で生きる微生物の研究者がずらっと並んでいる、という感じです。

そもそも、宇宙生物学というのは、上のニュースリリースにもあったように、宇宙生物を研究する学問ではなく、地球外の環境でも生物が存在しうるかどうか、を研究する学問のこと。もちろん惑星探査機などでの生命探査も重要ですが、「地球以外の環境でも起こりそうな生物現象を地球上で見つける」という研究が盛んです。今回の発表に出てくるメンバーも、ほぼ全員そういう研究をしている人。今回の発表もそっち方面と考えるのが順当でしょうか。

というわけで、Gecko’s EyesのNASAの発表内容の予想はこんな感じ。

酸素や水を使わず硫化水素や鉄、ヒ素などで光合成する微生物に関する新しい発見があった。これは極限環境微生物を効率よく検出する方法に使える。火星で生命の兆候が見つかるかもしれない。

つまり、リストの2番目、Felisa Wolfe-Simonさんの研究発表が軸になり、その応用や発展をほかのメンバーが紹介する、という内容。 え?つまらない?これはこれで面白い話なんですけどね。いや、ほんとに「地球外生命体を発見!」みたいなニュースだったらもっと楽しいんですが…

なんにしても日本時間3日の朝には答えが分かります。発表をわくわくしながら待ちましょう。

(続き) Gecko’s Eyes » Blog Archive » リンの代わりにヒ素を使って生きるバクテリアを発見

 

Reference

Mary Voytek « Profile « Directory « NASA Astrobiology
http://astrobiology.nasa.gov/directory/profile/4886/mary/voytek/

Dr. Felisa Wolfe-Simon
http://www.ironlisa.com/

Pamela Conrad « Profile « Directory « NASA Astrobiology
http://astrobiology.nasa.gov/directory/profile/201/pamela/conrad/

FFAME.org :: Steven Benner
http://www.ffame.org/people/sbenner.html

James Elser :Faculty: People | ASU School of Life Sciences
http://sols.asu.edu/people/faculty/jelser.php