Archive for the ‘Breaking News’ category
2013-10-03 13:00 JST First Post2013-10-04 10:00 JST USGS、FDAを追記2013-10-04 10:45 JST MAVENの凍結回避について追記2013-10-06 02:00 JST NRAOについて追記
2013年9月、米国議会において「医療保険改革法」をめぐって民主党と共和党が対立、新会計年度が始まる10月1日になっても暫定予算が承認されず、行政サービスの一時停止が敢行されました。緊急性の高いものを除き、多くの政府業務が停止、限られた職員で運用を行っている状態です。当然ながら、サイエンスの分野でも少なからず影響が出ています。
多くの研究機関などで業務が停止、日常的な業務や研究活動だけでなくWebサイトやSNSなどを通じた情報提供などが止まっています。これらの機関が運用しているデータベースなども、アクセスできなくなったりデータの更新が行われていないものがあります。また、一部の補助金の交付や承認、プロポーザルや論文などの受付も止まっているようです。こうした機関が主催するイベントなども中止されたり無期限延期になっているものがあります。
シャットダウン中は業務が緊急性の高いものに限定されているため、日常的なメンテナンスなどが止まっている部署も多いようです。そのため、機器などのトラブル対応が遅れ、それらの即応性が求められる業務に支障が出る可能性を指摘する声もあります。また、シャットダウンが明けても、その間に処理すべきだった業務が一斉に動きだし、通常業務が滞る可能性もあるとのことです。
これらの機関は海外の研究者との共同研究や共同プロジェクトを多数持っているため、そうした研究にも支障が出る事も考えられます。シャットダウンが長期化すれば米国内のみならず米国外への影響も大きそうです。
NASA: National Aeronautics and Space Administratio
アメリカ航空宇宙局(NASA)では、国際宇宙ステーションの維持管理など、クリティカルな業務に携わる職員600人を除くほぼすべての職員が自宅待機を命じられています。Webサイトも一部を残し、政府のアナウンスページにリダイレクトされている状態です。TwitterやFaceBookなどのSNSも更新を停止しています。オンラインで公開されていたデータベースなども多くがアクセスできない状態です。
ref. 2013年10月1日 米国政府閉鎖にともない次々と沈黙するNASA関連アカウント – Togetter
ただ、探査機や科学衛星の運用などを行っているジェット推進研究所(JPL)や応用物理研究所(APL)での業務は続けられているようです。JPLはカルフォルニア工科大、APLはジョンズ・ホプキンス大学が委託を受けて運用しているので、予算にバッファがあり運用が継続できているということのようです。ただ、WebサイトやTwitterなどはNASA本部の監督下で行われているので停止されているとのこと。長引くようなら独自の判断で情報発信をするかもしれないとも。
JPLのWebサイトにはアクセスできますが、アップデートされておらずコメントやメッセージにも返信できないというアナウンスが出ています。
ref. Space, Stars, Mars, Earth, Planets and More – NASA Jet Propulsion Laboratory
一方、11月18日に打ち上げが予定されている火星探査機MAVENへの影響が懸念されています。スケジュールには9日間のマージンがあり、打ち上げウィンドウは20日間あるとのことですが、シャットダウンが長引けばトラブル対応などへの余裕がなくなります。最悪打ち上げが中止になると次の打ち上げのチャンスは2年先になります。
ref. Maven mission to Mars focuses on atmosphere | FLORIDA TODAY | floridatoday.com
ref. [Updated] A Government Shutdown Could Delay MAVEN’s Launch to Mars | The Planetary Society
(2013-10-04 10:45 追記) どうやらMAVENはシャットダウンの対象からはずされ、作業が再開されたようです。
ref. Twitter / MAVEN2Mars
ref. NASA’s MAVEN Mission Spared from Shutdown | The Planetary Society
NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration
アメリカ海洋大気庁(NOAA)でも55%の職員が自宅待機、ただし気象観測衛星の運用や天気予報、ハリケーンや地震などの災害対応など緊急性の高い業務は継続して行われているようです。ただ情報発信は停止されていて、TwitterやFacebookのアカウントやWebサイトは閉鎖、サイト上の気象や災害関連のデータベースなどにはアクセスできません。ただし気象情報は NOAA National Weather Service (Wether.gov) で継続して提供されています。また太陽活動を監視している宇宙天気予報のサイト NOAA / NWS Space Weather Prediction Center もサービスを継続しているとのこと。
ref. Government Shutdown Affects Weather, Climate Programs | Climate Central
USGS: U.S. Geological Survey (2013-10-04 追記)
アメリカ地質調査所(USGS)も8600人いる職員のうち緊急対応を行う43人を除くほぼ全員が自宅待機となっています。Webサイトは閉鎖、緊急性の高いサイトのみが運用を続けている状態です。
ただし、Earthquake Hazards Programでは、地震のモニタリングは通常通り行われているが、情報の精度と即応性が落ちる可能性があるとのこと。また、Volcano Hazards Programでは、火山の監視は継続しているが、機器のメンテナンスが行われておらずモニタリング能力が低下する可能性があるとのこと。
CDC: The Centers for Disease Control and Prevention
疫病に対する対策などを行っているアメリカ疾病予防管理センター(CDC)でも68%の職員が自宅待機を命じられ、多くの業務が止まっているようです。緊急時の対応などについては継続して行われていますが、アウトブレイクの兆候を発見するための調査や研究、分析などに支障が出る可能性があるとのこと。
CDCのWebサイトそのものは閲覧できますが、情報の更新が行われず掲載されている情報が最新のものではない可能性があるという警告が掲載されています。
ref. CDC Shutdown: No In-Depth Investigations of Outbreaks – Washington Wire – WSJ
NIH: National Institute of Health
国立衛生研究所(NIH)では73%の職員が自宅待機を命じられているとのこと。NIHでは医療関係の多くの研究が行われていますが、こうした研究は止まっています。Webサイトはアクセスできますが、情報の更新が行われていない旨アナウンスが掲載されています。
NIHの附属病院では治験という形でまだ一般の病院では受けられない治療を行っていますが、新たにこうした治療を受けたいと望む患者は待たされるか他の方法を考えることになるだろうとのこと。ただし、現時点で進行中の治験については継続されているとのこと。
ref. NIH, CDC feeling government shutdown’s effects – CBS News
NIHでは医療関係の研究に対して補助金を交付していますが、これの受付が停止していることで、影響を受けている研究者も少なからずいるようです。
ref. NIH Feels Multiplying Effects of Government Shutdown: Scientific American
FDA: US Food and Drug Administration (2013-10-04 追記)
米食品医薬品局(FDA)では、通常の55%の人員で運用を行っているとのこと。医薬品や食品の安全性の監視について、緊急性の高いもの以外は行われておらず、通常の食品検査や輸入品の監視、企業などの検査、研究調査、地方の公衆衛生サービスへの支援などが止まっているようです。また、食品の安全、栄養、化粧品などに関する活動の支援も行えないとのこと。
ただし、州政府レベルでの監視業務は継続されており、安全性管理が行われていないわけではないようです。また、 United States Department of Agriculture (USDA)による食肉・家禽類関連の検査は継続されているとのこと(これはUSDAの検査なしでは操業を禁じられているため)。また、NOAAが行っている海産物の検査も継続中とのこと。
ref. Government shutdown halts FDA food inspections. Should you worry? – CSMonitor.com
Webサイトは公開されていますが、シャットダウン中は更新されていないという告知が出ています。
NSF: National Science Foundation
アメリカ国立科学財団(NSF)は医療分野を除く科学・工学分野の研究活動の支援を行っている研究費配分機関です。Webサイトは閉鎖、アクセスするとアナウンスのページに飛ばされます。補助金の交付は停止されています。プロポーザルなどの提出については、業務再開後にアナウンスされるとのこと。
ref. Government shutdown closes 3 of 4 National Radio Astronomy Observatories | The Planetary Society</a
NRAO: National Radio Astronomy Observatory (2013-10-06 追記)
米国国立電波天文台も10月4日に閉鎖されたとのこと。10月1日からの数日間は昨年度予算の繰越金で運用されていましたが、それが尽きたという事のようです。NRAOはNSFのファンディングを受けて活動していますが、10月1日よりNSFが活動を停止したため、NRAOもー停止を余儀無くされました。Webサイトも閉鎖され、アナウンスのページへ飛ばされます。
これにより、VLA(映画コンタクトで有名ですね)、VLBI、グリーンバンク電波天文台を含む複数の電波天文台が閉鎖されたとのこと。また、アレシボ天文台も余剰資金が2週間分ほどしかないため、閉鎖が懸念されているようです。国際共同で運用されているALMAはまだ大きな影響はないとのこと。
ref. The Latest Shutdown Information for NIH- and NSF-Funded Researchers (UPDATE) | Science Careers
Reference
United States federal government shutdown of 2013 – Wikipedia, the free encyclopedia
Impact of a government shutdown on federal agencies – The Washington Post
6 Ways Government Shutdown Will Impact Science, Health | LiveScience
U.S. Government Shutdown Looms After Senate Vote | Science/AAAS | News
2012年6月5日、アメリカ国家偵察局がNASAに2機分の監視衛星のスペアをNASAに供与するというニュースが流れてきました。これは4日付けのWashinton PostとNewYork Timesが報じたもので、これを受けてNASAが記者会見を開いたようです。
2紙の記事、およびNASA WatchのTwitterアカウント @NASAWatchでの記者会見の内容をざっくりまとめるとこんな感じ。
- アメリカ国家偵察局がNASAに2機分の監視衛星のスペアを供与
- 供与されるのは主鏡と副鏡、鏡筒、ラジエーターなど
- カメラなどの観測機器、ソーラーパネルや姿勢制御装置などは含まれていない
- 主鏡直径2.4-meter、ハッブル宇宙望遠鏡の100倍の視野
- 主鏡はハッブルより軽く、焦点距離はより短い。全体の大きさはハッブルの半分
- 現在は製造された工場に保管されている
- 現時点ではNASAではこの件についてはまだ予算化されてない
- 打ち上げにはアトラスVやファルコン9のような大きなフェアリングを持った打ち上げ機が必要
- 望遠鏡と通信するための地上施設も必要
- 計画中のWide Field Infrared Survey Telescope: WFIRSTに使えるかもしれない
WFIRSTは2024年に打ち上げが計画されているダークエナジーや系外惑星の観測を目的とした広視野宇宙望遠鏡。全米評議会(United States National Research Council)で次の10年のトッププライオリティプロジェクトに選出されています。もしこのNROから供与された望遠鏡が使えればもっと早く観測に入れるかもしれないとのこと。
どうやら、この件は2012年6月4-7の日程で行われているNational Academyの天文学・宇宙物理学の委員会で公表されたもののようです。
ref. BPA: Board on Physics and Astronomy
ページ最下段からリンクされた資料のうち “New Developments in Astronomy and Astrophysics”と”Implication of New Developments for the Astronomy and Astrophysics Decadal Survey”が当該プロジェクト関連の資料ですね。
後者の資料中に機体と思しき写真が公開されています。機密が解除されたという割にはあちこち黒塗りですが、確かにハッブルに似た、より全長の短い機体が写っています。
識者によれば、おそらくこれはKH-11 Kennan のものだろうとのこと。KH-11は70年代に開発されたキーホールシリーズの一つ、センチメートルオーダーの解像度を持つといわれるスパイ衛星です。
さて、ここからは筆者の推測です(鵜呑みにしちゃダメですよ)。
最大の問題は予算ですね。この緊縮財政のおり、開発費が押さえられるとはいえもう一機宇宙望遠鏡を飛ばすとなるとそれなりの予算が必要です。打ち上げ費用も必要ですし、運用体制も整えなければなりません。供与されるのは筐体と鏡だけですから、使えるものにするためにはさらに開発が必要です。そんな予算どこにあるの?というお話。
WFIRSTプロジェクトで使えるかもという話ですが、WFIRSTは全米研究評議会でトッププライオリティに上げられているとはいえ、当然まだ開発については予算化はされていません。鏡もらったから作るね、とはいかないはずです。
NASAはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の打ち上げを2018年に予定しています。宇宙科学系の予算がかなりそっちに割かれていることを考えると、新たにもう一つ宇宙望遠鏡を上げるというのは予算面での風当たりも強そうです。スケジュールが伸びに伸びてキャンセルの瀬戸際までいってようやく復活したJWSTの予算が切られるなんてことにならないといいんですが…
ちなみに、今回供与された望遠鏡は、広視野の可視光/近赤外線望遠鏡です。サーベイ観測とよばれる広い範囲を観測して面白そうな天体を見つけたり、たくさんの天体をいっぺんに観測して統計的なデータを取ったりといった分野で威力を発揮するはず。その意味では口径の大きな高分解能の望遠鏡で狭い領域を詳しく観測することを目指すJWSTとは相補的な関係です。必ずしもどちらかがあれば、どちらかはいらない、という類のものではないはず。
もう一つの問題は、これがまだ議会の承認を得ていないということ。NASAは国家機関ですから議会の承認なしでは動けません。あげるといわれて、じゃあもらいます、とはいかないはず。宇宙開発に予算を割くことに反対する立場から見れば、議会の承認も得ずに何勝手なことをやってるんだ、というところでしょう。まだ黒塗りの画像が上がってくるところを見ても、安全保障上の問題が全てクリアにはなっていないような印象を受けます。どう転ぶにしてもあちこちに波紋を呼びそうですね。
Referance
- BPA: Board on Physics and Astronomy
- NASA gets two military spy telescopes for astronomy – The Washington Post
- Ex-Spy Telescope May Become a Space Investigator – NYTimes.com
- NRO Gives NASA Two Hubble-Class Telescopes (Shh!) – NASA Watch
- アメリカ国家偵察局(NRO)がNASAに2機の宇宙望遠鏡のスペアを供与 – Togetter
- WFIRST – NASA
- KH-11 Kennan – Wikipedia, the free encyclopedia
- NASA – NASA Declassification Management Program